以前、フリーライターの荻原魚雷さんが、「このような仕事をしていると、生活のペースはかなり気ままになるし、上下関係もあまりなく、おかげでなかなか中年の自覚が生まれにくい」というようなことを書いておられました。古本屋の世界というのも、40代などまだまだヒヨッコといわれ(なにしろ80代で現役の方もいる世界)、でも上下の関係はわりとゆるく、それぞれのペースで日々ひたすら古本を買ったり売ったり、それがどんな本だったかについて一喜一憂しているうちに一年が過ぎて行くので、やはりその自覚は生まれにくいのです。たまに新聞や雑誌などで紹介していただく時に、古本屋蟲文庫店主 田中美穂(42)などと書かれていて、その数字の大きさにぎょっとすることはありますが、でもべつにそれで自覚が生まれるわけではありません。これはなにも、いつまでも若いつもりでいるというのではなくて、どうも現状をつかみかねている、といった感じです。まあ、部下や子供がいないのも大きいのだろうとは思います。
ところが先日、東京在住の20歳代の弁護士という男性から『わたしの小さな古本屋』を読んでたいへん励まされたという内容のじつに丁寧なお手紙をいただきました。そしてそのお返事に「この店は昨年20周年を迎えました。開店したのはあなたがまだ小学生の頃になるのですね」と書いているうちに、俄然中年の自覚が生まれてきたのです。子供の頃から、なんとなく想像していた中年婦人像と自分とがようやく重なった瞬間でした。Yさん、どうもありがとうございます。なんだかほっとしました。

今年も河津桜が咲きはじめました。
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昨年、横浜の一艸堂石田書店の石田友三さんの奥様、寿子さんからいただいたお雛さま。

石田寿子 作

きれいなお顔。
この歳になって、思いがけずやってきたわたしのお雛さま。旧暦の3月3日頃まで飾るので、これからまだしばらく楽しめます。家の者も「こんな可愛いのだったらいいね、ほらあのビッグバンドみたいなのは大変だけど」と気に入っていました。(注: “ビッグバンドみたい”というのは、七段飾りのこと)来年は店に飾りたいなと思っています。どうにかこうにかスペースをこしらえて。
ご近所さんから雛祭りで作られたという巻き寿司もいただきました。

このあたりでは、巻き寿司にはたいてい穴子が入ります。
そして明石方面の親戚からは、いかなごのくぎ煮が。

春です。